SNOWBOARD MASTERS

2020/03/13

東野圭吾よりメッセージ 「第三回スノーボードマスターズ中止について」

『第三回スノーボード・マスターズ開催中止について』

 皆さん、御無沙汰しています。いかがお過ごしでしょうか。

 すでに告知されましたように、スノーボード・マスターズ 3rdGAME は、中止ということになりました。誠に残念ですが、苦渋の決断でした。

 思えば今シーズンは、最初から不吉な予感が漂っていました。御承知の通り、雪が全く降りません。長期予報も絶望的な内容ばかり。いくら地球温暖化といっても、ここまでひどくなるとは誰も予想しなかったと思います。

 私が初滑りに出かけたのは十二月末です。行き先はかぐらスキー場でした。新幹線に乗る前から憂鬱でした。予報が雨だったからです。今シーズンは久しぶりに新しいウェアを買い、先に送ったスノーボードケースに詰め込んでおいたのですが、おろしたてのウェアをびしょ濡れにしたくはありません。急遽、古いウェアを引っ張り出し、バッグに押し込んで出かけたのでした。

 かぐらスキー場の、みつまたロープウェイ乗り場に行ってみると、予想を超えた光景が待っていました。ほかのスキー場は雪不足でオープンには程遠い状況なので、全国のスキーヤーやスノーボーダーたちが殺到していたのです。リフト券を買うだけで、一時間近く並ぶ羽目になりました。しかも雨。テンションはガタ下がりです。

 どうにかこうにかみつまたゲレンデまで上がると、辛うじて雨は雪に変わっていました。しかし雪不足であることに変わりはありません。かぐらゴンドラに向かうコースは圧雪もされておらず、がたがたです。

 どうなることかと思いながら、それでも上に行けば何かいいことがあるんじゃないかと根拠のない期待を抱きながらゴンドラに乗りました。

 かぐらゲレンデに上がると意外なことになっていました。リフト券売り場やロープウェー乗り場があんなに混み合っていたにもかかわらず、コース上に人が少ないのです。どういうことかなと思い、メインリフトであるかぐら第一高速リフトの乗り場に向かいます。するとそこもそんなに混んでいません。

 不思議に思っていたら、少しずつ謎が解けてきました。

 混んでいないのに、なかなかリフトに乗れないのです。理由は明白で、頻繁に止まるからでした。なぜリフトが止まるか、この駄文をお読みの方なら察しがつくでしょう。初心者が多く、しょっちゅう転ぶから止まる──ではありません。そう、風が強く、安全運転のためには止める必要があるのです。

 ようやく搬器に腰掛けることができましたが、それから先の恐怖はかつて経験したことのないものでした。

 揺れる揺れる。そして止まる止まる。

 一メートル進んだら止まり、動きだしたと思ったらまた止まる、という繰り返しです。すれ違う空の搬器は風に煽られ、空中で踊りまくっています。片足に取り付けたスノーボードが風に持っていかれそうになり、足首がもげそうです。お願いだから無事に到着してくれ、と神頼みしました。

 とりあえず山頂に着きましたが、そんな状態ですから滑りを楽しむどころの騒ぎじゃありません。視界は真っ白で、自分がどこにいるのかわからなくなります。気がつくとロープが目の前にありました。咄嗟に上体を低くしてロープをくぐってしまいましたが、別にコース外を滑りたいわけじゃありません。急いで方向を変えようとしてバランスを崩し、雪に埋まってしまうという有様です。もし見ていた人がいたら、「こんな日にコース外に挑むとは、よほどの物好きだな」と思ったことでしょう。

 ほうほうの体で滑り降り、まずはレストランで休憩しようと思いましたが、座るどころか、自販機のコーヒーを立って飲むのも困難なほど混んでいます。コースに人がいない分、こっちに集中しているというわけでした。今日は諦めてさっさと帰ろう、と全員の意見が一致したのは当然でした。

 このように散々な初滑りだったわけですが、その後の展開は個人的には悪くありませんでした。正月にはプライベートで富良野スキー場に行ったのですが、少ないながらも最高のパウダースノーを楽しめました。

 さらに一月末、今度は編集者たちと富良野に行きました。ところが前回との違いに驚きました。中国人客が、ほとんどいなくなっていたからです。新型コロナウイルスの影響らしいと聞き、中国は大変だなあと他人事のように考えていました。

 その後、いろいろなスキー場に行きましたが、近年目立つようになった中国人客はすっかりいなくなっています。

 それでも私は愚かなことに、自分たちの問題とは捉えていませんでした。スノーボード・マスターズ開催について話し合う時に気にしていたのは、「果たして四月まで雪が残っているかどうか」だけだったのです。

 何とか実施したい、というスタッフたちの意気込みは伝わってきていました。私は連日、ロッテ・アライリゾートの積雪量をチェックし、二月中にどの程度の積雪があればゴーサインを出せるだろう、などと考えてしました。

 しかし事態は大きく変わっていきます。新型コロナ・ウイルスの感染防止のため、文化・スポーツイベントの自粛要請が発表されたのです。人気アーティストたちも、次々とライブの中止を発表していきます。

 正直、迷いました。スノーボード・マスターズなんて、所詮は草大会。競技は屋外で行われるわけだし、観客だってほとんどいない。自粛する必要なんてあるんだろうか。

 しかし男女合わせて百人以上の選手が集まるということは軽視できません。スタッフの数も馬鹿にならず、一定の空間に一同が集まる必要も出てくるでしょう。パーティや打ち上げができないというのもつまらない。

 そもそもスノーボード・マスターズは、楽しめてなんぼのイベントです。どんちゃん騒ぎを自粛するぐらいならやらないほうがまし──いや、まあ、これは少しいい過ぎかもしれませんが、全国のスノーボーダーたちに楽しんで貰いたいという主旨を見つめ直せば、今回の結論は仕方ないかなと思いました。

 でも皆さん、滑ることは自粛しないでくださいね。来春の3rdGAMEで賞金をゲットすべく、しっかりと腕を磨いておいてください。私も賞金を用意できるよう、がんばって働きます。

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